宮田慶一さん(日本銀行北九州支店 支店長)
様々な活動を通して交流のある方を紹介で繋ぐ、リレートーク形式のコーナーです。北九州に仕事や生活の拠点をもち活躍している方々から、この街の多彩な魅力を語っていただきます。
徒歩圏内に何でも揃う環境に
暮らしやすさを実感
Q.北九州支店に赴任されて1年。北九州での暮らしはいかがですか。
25年前、福岡に1年半ほど住んでいました。その時、北九州に遊びに来たことがあり、まったく初めてというわけではありませんが、今回あらためて住んでみて、とても暮らしやすいと感じました。
東京と違って、歩いていける距離にいろいろなものが揃っています。そして、一般的に工業都市というイメージが強いけれど、実際はとても自然が近い。政令指定都市でこれほど自然との距離が近い街は他にないのではないでしょうか。
小倉駅の新幹線口からは工場が見えますが、反対の小倉城口からは間近に小文字山が見えます。他にも足立山や皿倉山などの山々、平尾台、関門海峡、若松の海など豊かな自然がとても身近にあるというのを住んでみて実感しました。
Q.お仕事の関係で、国内外の様々な都市でも生活されていると思いますが。
国内での勤務は、そのほとんどが東京です。新人の時に福岡支店にいた以外、国内の転勤は今回が2度目。ともに福岡県というのは何か縁を感じます。
それ以外はフランスのパリに合計3回、通算7年いました。
今回、子どもが東京の私学に通っていることもあり、家族を東京に残しての単身赴任です。時々さびしく感じることもありますが、不自由を感じることもなく、単身生活をエンジョイしています。
北九州をより良く知るために、週末に時間があれば市内のいろいろな場所を歩いています。小倉の他にも門司、戸畑、八幡、若松などくまなく散策して、街並みや風景を楽しむとともに、地元の食堂や「角打ち」に立ち寄ったりしています。
Q.昨年は、北九州市政50周年、そして日銀北九州支店も120周年の節目の年でした。
120周年というのは北九州支店の前身、門司にあった西部支店の時から数えてのこと。
北九州市が誕生した年に門司支店から北九州支店へと名称を変更していますから、北九州支店としては、市政と同じ50周年になります。
西部支店の初代支店長は高橋是清。時代は違いますが彼は42歳で支店長になっています。当時、西部支店は九州全域と中国地方を含めた広いエリアを管轄していました。職域が広く、西部日本を統括する重要なポジションだったということが分かります。
その初代から数えて、私は52代目になります。
住んでみてわかる街の魅力
知恵をしぼりピンチをチャンスに
この街で暮らしてみれば、一般的なイメージが間違っていることがよく分かります。ここでぜひ紹介したいのが、当地の単身赴任者の間でしばしば語られる「北九州に来たら2度泣く」という話しです。
まず北九州への転勤が分かると、「なぜ、あんな怖いところへ行かなきゃいけないのか」と泣く。しかし実際こちらに住んでみると、人は良いし食べ物は美味しい。外からのイメージとは違ってとても住みやすいと、北九州の良さを発見します。
そして、やがてこの街を去る時が来ると「離れがたい」と泣く。来る前と去る時とで2度泣くという話しです。怖い町といっても、日常生活で怖い場面に遭遇することはほとんどなく、むしろ私の生まれた東京の方が余程怖いと思います。
一方、北九州には実際にいいところがたくさんあります。にもかかわらず、北九州の人はシャイなのか、自慢したがらないので良さが外部に伝わらないということがあると思います。地元の人がもっと北九州の良さを発信するべきですね。
Q.北九州の魅力をアピールするため、具体的にどんなことが考えられますか。
ここには玄界灘の魚はもちろんのこと、周防灘のハモやカキ、関門のフグやタコなど、地理的に魚貝の食材が豊富です。野菜では合馬のたけのこや若松のトマトなど、ほんとに美味しいものがたくさんあります。
例えば門司にオーベルジュをつくり、フレンチの3つ星シェフを呼んで、地元の食材を使った美味しい料理を提供すれば、遠くからも食通の大人たちがやってくるはずです。天気の良い日に関門海峡が眺められる広いテラス席で、地元の食材をつまみにシャンパンでも飲むなんて想像しただけでワクワクします。
北九州には全国レベルの飲食店が驚くほど多く、「角打ち」といったユニークな文化もある訳ですから、こうした取り組みが起爆剤となって、北九州の食文化の高さが全国、全世界に広まったら素晴らしいと思います。
北九州には食文化以外にも全国に誇れる良いところが沢山あります。市民の方々はずっとここに住んでいるので感じにくいのかもしれませんが、この街の良さをちゃんと理解してアピールしてほしいと思います。
Q.地元の経済や産業については、どのような展望がありますか。
政令都市の中で高齢化率が一番高いなど、課題はあるけれど悲観的に考える必要はないと思います。北九州市の特徴として注目してほしいのは、高齢化率の高さよりも高齢者の就業率が全国平均よりも低いことです。
これは、働いている高齢者が少ないということ。この世代には優れたノウハウをもっている人が多いので、もっと活かされるべきだと思います。また、高齢者が多いことをビジネスチャンスと捉えることもできます。
ピンチをチャンスに変える発想が大切です。すでに実践している企業がありますが、お年寄りが歩いて買い物できるようなきめ細やかな店舗展開をするとか、製造業の高い技術を活かして介護ロボットを推進するなど、高齢者関連ビジネスに結び付けていく姿勢が大切です。
そして、こうした取り組みが高齢者にとって住みやすい街づくりへとつながっていくと思います。今後、日本全体で高齢化が進んで行く中、北九州市が全国のモデルケースになるチャンスは十分にあると思います。
Q.北九州経済はこれまでも様々な難局に直面してきました。
北九州経済は炭鉱からはじまって、鉄鋼、電機、化学、自動車と、経済環境の変化に柔軟に対応しながら産業の裾野を広げ発展してきました。
こうした経済の急激な変化や公害問題に直面しながらも、日々改善、進化を遂げながら克服してきた知恵が当地には豊富に蓄積されていることを、私自身が多くの地元企業をまわって実感しています。北九州経済のポテンシャルは本当に高いと思います。
ラグビーを通じて広がるネットワーク
地元密着で地域に貢献
Q.市内で好きな場所はありますか。
たくさんあるのですが、自宅近くの旦過市場には良く行きます。以前パリに住んでいたころ、通勤の途中にマルシェ(露天市場)があって、そこで魚や野菜などに季節を感じることができました。
旦過市場でも、例えばたけのこを見て春が来たと感じたり、白菜やカブの床漬けが出始めると冬の到来を実感したりと、季節を実感することができます。イメージは違うかもしれませんが、フランスのマルシェのようでいいなと思います。
Q.週末はどのように過ごされていますか。
東京にいる時にラグビースクールのコーチをしていましたが、転勤を機に昨年から鞘ヶ谷ラグビースクールのコーチとして、練習を指導したり、試合の引率をしたりしています。
きっかけは就任記者会見で、趣味はラグビーで、東京で指導していたラグビースクールが日本一になったという話しをしたこと。当地にはラグビー好きの方が多く、話しがあっという間に広がり、多くの方々よりいろいろな方をご紹介いただきました。
自分自身がお世話になったラグビーを通じて地域貢献ができればと思います。今、6年生を指導していますが、子どもたちと接して心が洗われるというか、とても素直でかわいいですね。自分自身もラグビーのクラブチームに所属して、毎週水曜日の夜に行われる練習に時間があれば参加しています。ただ、最近は仕事でなかなか時間が取れずに、フラストレーションがたまっています。ラグビーを通じてネットワークが広がり、おかげで週末も忙しくしています。
Q.本来の業務以外にも講演会などお忙しい中、地域の様々なイベントにも参加されています。
こちらに来て講演会は50回以上やっています。また、この1年間でやはり50近い地元企業をまわり、たくさんの人にお会いしました。
プライベートでは、ラグビーに加え100キロウォークや北九州マラソンにも参加しました。せっかく北九州に来たのだから、なるべく大勢の人と出会って、交流を深めたいと思います。
聞き手・文責/崎間 恵子