山下悟さん(ビアレストラン 門司港地ビール工房 支配人)
様々な活動を通して交流のある方を紹介で繋ぐ、リレートーク形式のコーナーです。北九州に仕事や生活の拠点をもち活躍している方々から、この街の多彩な魅力を語っていただきます。
船舶が行き交う海峡を見渡すビアレストラン
一番美味しい出来立ての味わいにこだわり
門司港ホテルの海沿いを進み、跳ね橋ブルーウィングもじを渡るとすぐ。そこはレトロエリアの中でも特に海峡の風情を身近に感じられる場所。
「12年前、弊社の社長がアメリカ・タコマ市の港の見える街角で初めて地ビールを口にし、『レトロの香るわが街で旨いビールを飲んでみたい』と思い、その2年後に門司港地ビール工房が誕生しました」と、開業の由縁を語ってくださる支配人の山下さん。
その昔船舶用品の倉庫だった建物を醸造所を併設するビアレストランに改築し、1998年4月にオープンしました。1階の吹き抜けの高い天井を見上げるとクレーン設備の跡が見えます
。さらに2階の醸造所の様子もガラス越しに眺められ、「地ビール工房」の名にふさわし雰囲気に包まれています。
「『出来立ての一番おいしい状態で』を合言葉に、ビールは2週間程度で全てさばけてしまうようにサイクルを組んでいます」。出来上がったビールは毎回社員全員で試飲し、基準に達しないものは税務署を呼んで廃棄するとか。
「すごく勇気のいることですが、何処にも負けない旨いビールを提供したいという思いの表れです」。穏やかな口調の中にも、会社のゆるぎない信念が伝わってきます。
目指しているのは「観光地のビール屋」ではなく
地元の皆さんに愛される「私たちの街のビール」
世界中には80種類以上ものビールがあるそうです。「ヨーロッパスタイルやアメリカスタイルなどさまざま。中でもドイツには地域に根付き、その土地で愛され続けているビール文化があります。
私たちが感じているビールの美味しさ、面白さを、世界の基準でお客様に伝えていきたい」という使命感が、店の接客の姿勢に込められています。
ここでは地ビールを更に美味しくいただけるよう、料理メニューも豊富に取り揃えています。1階ではジンギスカン。ニュージーランド産を使用し現地でさばき一度も冷凍しない「生肉」だから、ジューシーさと旨みが際立ちます。
また、3階のレストランフロアの一番人気は石釜ピッツァ。注文を受けてから生地をのばし400℃の石釜でさっと焼き上げたパリッ!とした食感は、ビールとの相性も抜群です。
「味わいの基準は醸造しているそれぞれのビールがしっかりとした個性をもつこと。日本人基準ではなく、ヨーロッパスタイルの本物の味わいを届けたい」と、現状に満足することなく常に努力を続けているビール醸造の技術者やスタッフの面々。
観光地としてブランドイメージが定着しつつある門司港レトロエリアにあって、地元で愛される「私たちの街のビール」として、10年の歩みが根付こうとしています。
ビールの奥深さを知り、料理に腕をふるう
自分が味わった感動を多くの人に伝えたい
ご自身のことを無類の酒好きと言われる山下さん。この仕事に携わって面白いと感じるのは、お酒に関する自分の知識が広がったことや、料理ができるようになったこと。
「お店では時々パスタやピッツァを作っています。ピッツァ作りには自信がありますよ」と、支配人といえども時には厨房で腕をふるうのだそうです。
そして、門司港レトロ地区という恵まれた環境の中で働けることも、山下さんにとって充実した日々をおくる活力の源になっていると感じられる。やはりこの街は人をひきつける魅力にあふれているのでしょう。
忙しくて趣味の旅行を楽しむ時間もあまりないそうですが、将来は歴史探訪などのんびりと旅行をしてみたいと夢を語られる山下さん。
「まずは仕事を通じて、ビール文化の拡大などしっかりと社会貢献をする。そして将来は、自分で小さな店を開き、好きなとき歴史探訪の旅に出られるようになりたいですね」。旅先などで感じた感動を人に伝えたいという思いが、さまざまなアイデアを生み仕事に活かされる。
この4月から11年目の歴史を刻み始める門司港地ビール工房は、お客様に感動を伝えられるビアレストランとして、これからも地元で愛され続けていくに違いありません。
インタビューを終えて
レストランフロアの窓からは、情緒たっぷりの海峡の景色が見渡せ、夕暮れ時の空の移り変わりは心奪われるほどです。美味しいビールと美味しい料理。地元で愛される食文化を味わいに、皆さんもぜひ出かけてみてはいかがでしょう。
レポーター/崎間恵子