矢野 秀樹さん(有限会社ケーキギャラリーエスプリ 代表取締役 )
様々な活動を通して交流のある方を紹介で繋ぐ、リレートーク形式のコーナーです。北九州に仕事や生活の拠点をもち活躍している方々から、この街の多彩な魅力を語っていただきます。
駅前再開発によって若いファミリー層が増加
学生も行きかう賑わいのある街“八幡”へ変貌
鉄鋼業の繁栄とともに、「ものづくりの街」として日本の経済成長を支えてきた街、八幡。
その中心地であるJR八幡駅周辺は、現在、北側の東田エリアに情報通信産業などのオフィスビル、南に九州国際大学のキャンパスが整い、新時代を担う街へと生まれ変わっています。
そのJR八幡駅前で、再開発事業が始まる以前から、ケーキ店を営んでいる矢野さん。オープンから今年で17年目を迎えられるそうです。
「昔の古い建物の時は、壁のタイルが剥がれ落ちてくるなど老朽化が激しく、空き店舗も目立ちました。
そこへ再開発計画によって新しい街づくりがはじまり、一時期の仮店舗を経て、再開発ビルの新店舗で再開し、今年の4月で5年になります」。
北九州市内でも、特に高齢化率が高く、人口の流出が進む八幡東区。製造業の衰退とともに街の活気も薄れ、ケーキ店の進出は八幡西区や小倉南区などのニュータウンを控えたエリアに目立っているそうです。
それでも慣れ親しんだ八幡での営業にこだわった矢野さん。
「以前は住居施設があまりなかった駅前地区に、再開発によって高層住宅ができ、若いファミリーが多くなりました。それまではあまり見かけなかった、小さな子ども連れのお客さんが増えていますね。
また、九州国際大学も移転してきて、学生さんをはじめ若者の姿も多くなり、居酒屋などの飲食店もたくさんできました」と、高齢化が進んでいる一方で、確実に若い世代によって街ににぎわいが戻ってきていると感じられるとのこと。
JR八幡駅を背にして駅前の大通りを見渡すと、成熟した街路樹と整然と建つ再開発ビル。
そしてゆったりとした歩道や緑地帯には彫刻やモニュメントがさりげなく置かれ、文化の香りも感じられます。皿倉山を背景にして、八幡の街は堂々とした風格で訪れた人を迎えてくれるようです。
名実ともに看板商品になったエスプリの「生パイ」
手づくりと素材にこだわった、地域で愛されるケーキ店
ケーキギャラリーエスプリのケーキと言えば有名なのが「生パイ」。
18年近く様々なケーキ店で修行をして、36歳の時に独立した矢野さんは、オープンを機に、何かお店の看板になるような商品が作れないかと考えたそうです。
「知人から教えてもらったケーキをヒントに、似たようなものを自分で食べてみて、これならもっといいものができると思い、いろいろと試行錯誤しました。
はじめの頃は、一日2・3台程度。
それから少しずつ増えていって、平日に50~60台、週末には100~120台と、徐々に親しまれていったようです」。
たっぷりの生クリームとカスタードを合わせたクリームを、サクサクのパイで丘のように包み込んだユニークな形の「生パイ」。
生クリームと接するパイ生地の内側がカラメル状になっていて、パイのサクサク感が長持ちするよう工夫されています。
去年、テレビで紹介されるなどして、電話で場所を訪ね遠方から来てくれるお客さんが増えたそうです。
さらに、「今年に入ってから、映画のロケに来ていた女優の綾瀬はるかさんが出演したTV番組の中で食べていたとかで、それをきっかけに問い合わせが増加。
ゴールデンウィーク期間中は100~120台が午前中には売り切れてしまうほどでした。中には田川や福岡、大牟田からも買いに来られましたよ」。
この「生パイ」、一から手づくりにこだわっているので、パイ生地だけでも3日間はかかるとのこと。冷凍品などは一切使っていないので、これ以上はつくれないそうです。
しかも、17年前に誕生した時とスタイルはほとんど変わらず、値段もそのまま。
1000円に消費税が付き1050円になっているだけというから驚きです。「卵は新鮮で美味しい鞍手町の『味宝卵』を使っています。
値段を上げずに、使う材料は良くしているので、正直厳しいのですが」と苦笑する矢野さん。
お客様第一の職人の顔が垣間見られたような瞬間です。
誠実なお菓子づくりが、名実ともに地域に愛されるケーキ店へと、評判を高めていったような気がします。
誠実な物づくりの心で、暮しに根差したサービスと
多世代が生き生きと暮らす街に、甘い香りと彩りを
17年前のオープン当初から、夫婦で一緒に仕事をしておられるという矢野さん。
定休の日曜日には、奥さまと一緒に同業種のお店めぐりをされることもあるそうです。
「評判のお店があると聞くと、福岡や熊本などへ出かけてみます。
たまに連休になれば、東京や北海道に行くこともあり、それももっぱらケーキづくりに役立つことを探す旅ですね」と、どこまでも職人気質の矢野さん。
奥さまは良き仕事のパートナーでもあるようです。
今やエスプリの代名詞ともなった「生パイ」の他に、地元のお土産としても使えるようにと生み出された「皿倉アマンド」というお菓子があります。
マドレーヌをさらに濃厚にしたような味わいで、山に見たててこんもりと成形された愛らしい焼き菓子。
この他にも迷ってしまうほど種類豊富にケーキがそろっているのですが、問題が一つあるとのこと。
「お店の前は広い通りで交通量も多くないのですが、一帯が駐停車用のコインパーキングシステムになっています。
それで、ケーキを買いにちょっと立ち寄られる場合でも、車をパーキングに止めると300円かかることに。少しの間なら大丈夫なのですが、車が気になり忙しい思いをするお客様もいらっしゃいます」と、矢野さんは申し訳なく感じておられる様子。
通り沿いが、5~10分程度なら無料で駐停車できるようになれば、お客さんの利便性も増すはず。
これは近隣のショップでも同様なので、何か対策がこうじられると、各ショップの利用者もきっと増えるのではないでしょうか。
また、エスプリでは、保冷材をリサイクルしています。常温のままで持参すれば、代わりに冷凍した保冷材を入れてくれます。
ちょっとした気づきですが、物に対するお店の愛情がうかがえます。お客様に喜んでいただけるお菓子を、誠実につくり続けているケーキギャラリーエスプリ。
若者から高齢の方まで多世代が暮らす八幡の街に、これからも甘い香りと彩りを添えてくれることでしょう。
インタビューを終えて
しっとりとしていて、程よい甘さと口溶けの良さが味わい深い「皿倉アマンド」は、手土産として喜ばれそう。
「生パイ」の他にもロールケーキやシュークリームも人気商品です。
駅前の駐車場を利用すれば20分まで無料なので、少し距離はありますがゆっくり品定めができるかもしれませんね。
レポーター/崎間恵子
● インフォメーション
- ケーキギャラリーエスプリ
住所/北九州市八幡東区西本町2-2-1(JR八幡駅前)
営業時間/9:30~20:00(土曜、祝日~19:00)
定休日/日曜
電話/093-682-0063