社長室 西森 誠さん(財団法人 タカミヤ・マリバー環境保護財団)
様々な活動を通して交流のある方を紹介で繋ぐ、リレートーク形式のコーナーです。北九州に仕事や生活の拠点をもち活躍している方々から、この街の多彩な魅力を語っていただきます。
設立の動機は「地域に恩返し」の志
地元の環境愛護団体との協力と支援
(株)タカミヤ 本社
財団法人タカミヤ・マリバー環境保護財団は、平成5年11月4日、株式会社タカミヤの高宮俊諦氏を理事長とし設立されました。
(株)タカミヤと言えば釣りの専門量販店「ポイント」などを展開する企業。設立の経緯には同社のルーツが関わっています。
「創業者である前社長は、昭和24年に紫川常盤橋のたもとで釣具店を開業し、やがて工場排水などで汚染されていく川を市民の親しめる美しい川にしたいと、環境美化や福祉活動に取り組んでいました」と、西森さんの話しは60年前に遡ります。
その後、市民・企業・行政が一体となった環境政策や環境保護活動の取り組みによって、公害の町北九州は劇的な変化を遂げ、青い空と美しい海を取り戻していきます。
そして前社長の急逝後、「地域に恩返しをしたい」という前社長の遺志を受け継ぎ、現社長の俊諦氏が自ら理事長になって同財団を設立しました。
シンポジウム
活動内容は、北九州市域内の河川の美化・清掃事業、河川愛護団体との協力及び支援事業、水生生物の生態研究及び保護・育成事業、海域の水産資源保護・増殖及び海岸線の環境美化事業、さらにその他付帯事業など。
「具体的には、同様の活動をしている団体に助成金を交付するマリバーエイドや、河川や海岸の清掃活動をほぼ毎日行う2台のマリバー号、市民啓発のためのシンポジウムの開催などがあげられます」。
紫川アユ放流
中でも、毎年行われる紫川の稚鮎の放流祭は、毎回大勢の市民で賑わう春の風物詩になっています。また、活動団体への事業資金の助成には年間平均で60件前後の申し込みがあるとか。「広く浅くをモットーに資金提供をしています。
これは地道な活動をしている地域に根差した団体を支えることに、大きな意味があると考えているから」とのこと。ちなみにマリバーとは、マリンとリバーを合わせた造語で、青い海ときれいな川を取り戻したいという意味。
紫川は今、市民の憩いの場として、街に潤いをもたらすかけがえのない存在になっています。
活動を通じて実感する水辺や街の変化
自然とのふれあいを通じて環境への関心を育む
大蔵川清掃
約7年にわたって、この活動にかかわってきた西森さんは、始めたころと比較して変わってきたと実感する点があるとのこと。
「支援をしてきた団体に、自主性が育ってきたと感じています。支援をすることはいいのですが、通常は独立して個々で活動しながら、一緒に何かする時には力を合わせ連携する、というのが理想だと考えています」。
さらに、紫川に限らず、川が本当にきれいになったそうです。「雨上がりなどは別ですが、清掃活動をしていてもゴミが大して見当たらないことがありますね」。
また、紫川の上流で、大きく育った鮎を見つけた時は、1年でこんなに大きくなるんだと、とても感動したとも。
「鮎が身近な水辺に生息することで、自分たちの住む街がどんなに美しいかということが感じられ、ますます自然を大切にしなければいけないという意識が生まれてきます。生育の自然サイクルが確立すればいいのですが、それまで放流というかたちでサポートしていく。毎年、稚鮎を放流することの意味が、そこにあると思っています」。
清掃事業 マリバー号
活動の柱の一つに、水辺の自然と青少年とのふれあい事業があります。稚鮎の放流祭には少年野球チームやボーイスカウトなど、青少年の団体にも積極的に参加してもらっているそうです。
「今の子どもたちは、なかなか自然とふれあう機会が少ないのでは。自然や生き物との係わりをもつことで、はじめてゴミを捨ててはいけないと環境への関心が育まれていくものでしょう」。
また、マリバー号においても清掃活動だけでなく、釣り人に声をかけるなど、環境保全の啓もう活動も行っているそうです。
市民が気軽に親しめる美しい川や海、多くの生き物が生息する自然環境。ちょっと意識して目線を変えてみることで、当たり前だと思っている地域の環境が、将来にわたって守っていかなければいけない、大切な宝物だということに気付かされます。
見て・ふれて・楽しく学ぶ「環境ミュージアム」
北九州は自然と人の営みがバランスよく共存する街
環境ミュージアム
(財)タカミヤ・マイリバー環境保護財団は、2006年4月より「環境ミュージアム」の指定管理者として市の委託事業を行っています。
「環境ミュージアム」とは、環境首都を目指す北九州の環境情報発信基地。指定管理者として2期目に入った今年度からは、里山を考える会と一緒に管理業務を行っているそうです。
「市民の方に北九州の変遷や環境への取り組みを知っていただくのに優れた施設で、分かりやすく親しみやすい内容も盛り込まれており、県外からの修学旅行生にも活用してもらっています」。
ここでも、財団として活動し蓄積してきた環境への取り組みのノウハウが活かされているようです。
語る 西森氏
今後の財団としての方向性や、気になる事などをうかがってみると、今の景気の状況から考えて、財団の運営が厳しい状態にあるのは確かだとのこと。
「今後については、発展的にというのは難しい面がありますが、これまでの活動を地道に続けていくことが大切でしょう。しっかりと継続して地元の環境団体を支えていくことに意味があると考えています」と西森さん。
また、地域で活動している多くの団体で、構成員の高齢化が進んでいる点が気がかりだとも。
「今すぐ若い人に関心をもってほしいというのは難しいかもしれませんが、団体を支えていく次世代の人を増やしていくことも課題だと思います」。
海岸清掃
最後に、北九州の良いところはとお尋ねすると、「自然と産業との共生」をあげられました。
「八幡には工業地帯があり、その背後には皿倉山がそびえている。小倉にはビジネスや商業が集積されていながら、少し行くと鱒淵ダムや平尾台・鍾乳洞などがある。北九州を訪れる人には、このような自然環境と人間の営みがバランスよく共存している、その対比を見てほしいと思います」。
日本の近代化の過程で発展する一方、大気汚染など環境破壊を経験した北九州市。そこから環境首都へと再生の道のりを歩んできたこの街の、美しい空や川を守っていくためには、私たち一人ひとりが意識して行動していくことが大切なのだと感じました。
インタビューを終えて
昨年に続き、今年度も行われる「北九州市環境首都検定」。この秋発売された公式テキストを読むと、楽しく学びながら北九州市の魅力が再発見できます。
そして、その中の「企業の取り組みとCSR」という項目に、(財)タカミヤ・マリバー環境保護財団の活動が紹介されています。
地道な活動を知ることによって、日常生活を見直し、自分にできることは何かを考える良い機会をいただきました。
レポーター/崎間恵子
● インフォメーション
- 財団法人 タカミヤ・マリバー環境保護財団
設立/平成5年11月4日
所在地/北九州市八幡東区前田企業団地1-1 (株)タカミヤ内
所轄官庁/福岡県 県土整備部 河川課 - 北九州市環境ミュージアム