写真家 小川裕司さん
様々な活動を通して交流のある方を紹介で繋ぐ、リレートーク形式のコーナーです。北九州に仕事や生活の拠点をもち活躍している方々から、この街の多彩な魅力を語っていただきます。
初搭乗スターフライヤーの機内誌「雲のうえ」に好印象
北九州は食べ物が美味しく、住宅事情にも恵まれた町
Q.名古屋市のご出身で、北九州に来られる前は海外勤務をされていたそうですね。
シンガポールに6年、シドニーに5年、ソウルに3年、トータルで14年間海外生活をし、2009年の4月に北九州に来ました。
Q.来られる前は、北九州について、どのようなイメージをお持ちでしたか?
知識としては、石炭や製鉄などの近代産業を担い、日本の近代化をけん引してきたというのは知っていましたが、漠然としたイメージだけで、ほとんど白紙の状態でした。
それが、シンガポールから戻り、自宅のある東京からはじめて北九州に向かうために乗ったスターフライヤー機で、「雲のうえ」という冊子を見て驚きました。
内容が面白く、しかも発行元は北九州市。「こんなユニークなものを市がつくるとは、なんだか面白そうだ」と、その時思いました。
Q.実際に住んでみて、いかがですか?
海外生活が長かったこともあり、特に食べ物が美味しいですね。
焼酎や魚が安くて美味しい、中でも白身魚はここでしか食べられない美味しさです。
それから、通勤事情や住宅環境も、日本の他の都市と比べて、格段に恵まれています。
私は今、小倉北区の室町に住まいがあり、門司港に会社があるので、ラッシュと逆方向ということもあって、朝は座って通勤しています。
Q.会社が門司港レトロエリアにある、というのも魅力的ですね。
そうですね。
駅からも近く、古い街並みが残りのんびりした雰囲気で、なかなか味のある町です。
豪州の花に魅せられ本格的に写真をスタート
その土地固有の歴史や文化の違いを楽しむ
Q.写真を始められて、どれくらいですか?
以前からスナップや家族写真などは撮っていましたが、本格的に撮りはじめたのは、シドニーに住むようになった10年程前からです。
主に興味をもったのが、オーストラリアの花々です。
日本とは違った形や色が面白く、集中的に撮るようになりました。
その時の写真シリーズ「豪花」で、2004年にシドニーで個展を開き、写真集として「豪花」「豪花2」を出版しました。
Q.シドニーの後、2005年からはソウルにお住まいですね。
ソウルで暮らすようになって、自然などの景観は日本に似ていたのですが、文化の違いが面白いと感じました。
お葬式を病院でするとか、カキ氷をかき混ぜて食べるとか。
住んでみないと分からない、私が感じた驚きや感動を、写真とエッセイで紹介することに。これは「なんせんちょうむ」というコラムで韓国版NNAに連載され、フォトエッセイとしても出版しています。
(※「なんせんちょうむ」「なんせんちょうむ2」「なんせんちょうむ3」、発行・発売:エヌ・エヌ・エー)
Q.エッセイは、日本語の他、韓国語と英語に訳してありますね。
地元の人は他との違いに気付きません。何が違うのか分かってもらいたいと思い、こうしました。
文化の違いに気付き、話し始めるきっかけになって、お互いを理解することに役立つと考えました。
Q.北九州の町も、他所から来た人の視点から、どのように見えましたか?
北九州は、町そのものが面白いです。
地元の人が、地元の良さに気付かないというのは、どこの町でも同じです。
他所から来た人に、どう見えるかに興味があり、まず「門司港物語」としてまとめ新海運ビルで写真展を開き、その発展形として「北九州物語」をフォトエッセイとしてまとめ、旧大阪商船ビルでも開催しました。
※「Port Moji」
Q.この春、写真展「工場萌え 北九州」を、名古屋と東京で開催されました。
これは臨海工業団地周辺をめぐる、バスを使っての見学ツアーで撮ったものです。
特に夕暮れから夜にかけての景色が素晴らしく、日本の近代化をけん引してきた鼓動が聞こえてくるようです。
※「工場萌え 北九州」
古代史から始まる土地の歴史物語に注目し
ソフトを充実させ何度も訪れたくなる町へ
Q.ご家族や友人などが来北された時は、どんな場所を案内されますか?
観光地としては身近なところで、松本清張記念館や小倉城、森鴎外旧居などがあります。
個人的には、門司港や若松の海岸なども好きですね。
食事はもっぱら、住んでいる室町界隈ですることが多いです。
ここで生活する間に知り合った、町内の方が営んでいるお店は面白いところが多く、とても気に入っています。
Q.今後、北九州市がもっと魅力アップするためには、どうすればいいでしょうか?
地元の人が思っているよりも、この町は面白いところがたくさんあります。
今の門司港レトロもいいけれど、少し離れたところにも、興味深い場所がたくさんあります。
特に、古代史に始まって、中世など、その土地にしかない歴史物語があることは、あまり知られていません。
これからますます高齢化し、神話などに関心を持つ人が増えていくでしょうから、箱ものなどのハードではなくソフトの面を充実するといいのではないでしょうか。
観光客が一度訪れるだけで終わるのではなく、テーマを持たせてその土地の歴史背景を深く知ることができるよう、準備していくといいと思います。
Q.とかく博多の町と比較して、特に若い世代で博多志向があるようですが。
北九州の人は、北九州をあまりアピールしませんね。
でも、都会的で綺麗な博多のような町は、世界中どこにでもあると私は思います。
ミニ東京のような町ではなく、むしろ北九州のような、消費するだけではなく産業のある、個性的な町に魅力を感じます。
小倉、戸畑、若松など、その土地土地に祭りが残っているのも面白い。
絶対北九州のほうが魅力的ですよ。
Q.企業人としては、短いサイクルで転勤されるのでしょうか?
北九州での暮らしが気に入っているので、長く居たいと思っています。
町の事をもっと知りたいですし、神社などにも興味があるので、写真を撮りに行きたいです。
最近では、九州新幹線開通時に企画された、「写真家とめぐる若松」というイベントに招かれ、講師として風景の撮り方など指導する機会がありました。
今は、仕事をしながら趣味を楽しんでいる、という状況です。
これからも北九州のよいところを、写真でたくさんご紹介ください。
お忙しい中、インタビューにお応えいただき、ありがとうございました。
聞き手・文責/崎間恵子